自動車のエネルギについて数字で考えてみよう

 第5回ブログ担当の美馬です。メカトロニクスやロボティクスに関する研究をしています。自動車に関しては全くの素人ですが、運転をしたり、しくみを調べたりすることが大好きなので、今回はそれに関するお話をします。

 

 最近、自動車の電動化の話題をニュースなどで良く聞く様になりました。「A社が2030年までに年○○万台の電動化自動車を販売する」「B社は2040年までに全ての車種を電気自動車にする」「やはりC社は方針を撤回した」等です。また、SNS等でも「早くEV化をすすめるべきだ」「EV化は慎重に行うべきだ」などの様々な議論があり、興味深いところです。

 

 そこで今回は、電動化された車の一種であるEV(車を動かす動力源として、バッテリーとモータのみを備えた純粋な電気自動車)と、現在最も普及しているガソリンエンジンを用いた自動車を、エネルギー量の観点から比較考察してみました。

 

ある自動車メーカーのカタログ[1]から抜粋した、車格の近い2種類の自動車の諸元の一部を表に示します。

車名

全長x全幅x全高[mm]

駆動輪

車体重量[kg]

搭載エネルギ源

動力源

/出力

WLTC

燃費 or

電費

航続距離

SO

EV)

4690x1860x1650

AWD

(全輪駆動)

2000

リチウムイオン電池

71.4kWh

モータ/
80kWx2
=160kW

133Wh/km

542km

(電費と電池容量より概算)

L-OB

(ガソリン車)

4870x1875x1675

AWD

(全輪駆動)

1680

ガソリン

63L

4気筒ガソリンエンジン
130kW

13km/L

819km

(燃費とガソリンタンク容量より概算)

 

 これをみると、車体の大きさや形状はほぼ同じにもかかわらず、車体重量はEVの方が320kg程度重くなっています。この理由は、搭載しているエネルギ源であるリチウムイオン電池の重量分が多くを占めています。現在のリチウムイオン電池の重量エネルギ密度(1kgあたりの電気容量)は概ね150Wh/kg[2]程度ですので、カタログ値から計算すると
71.4
× 1000 Wh / 150
Wh
/kg =
480kg
となり、カタログ値の車体重量差に近い値となりました(実際はエンジンや変速機、モータの重さも影響します)。EVは同程度のガソリン車と比べて、電池の重さ分だけ重くなることがわかります。エネルギを電気の形で蓄えるのは、ガソリンのような化学エネルギの形で蓄えるより大変なんですね。

 

 では、搭載しているエネルギの量を比べてみましょう。EVでは、電池容量は71.4kWhとなっており、これをエネルギの単位である[MJ]であらわすと、71.4kWh×3.6=260MJとなります。いっぽう、ガソリン車ではタンクの容量は63L、ガソリン1Lあたりの発熱量は約33.4MJ[3]ですので、63×33.4=2100MJとなります。満タン時、ガソリン車はEV9倍ぐらいのエネルギを搭載していることがわかります。

 

 つぎに、航続距離を比べてみましょう。EV542kmにたいして、ガソリン車は819kmとなっていて、EVはガソリン車の2/3程度の距離にとどまっていることになります。

 

 そうすると、EVはガソリン車の1/9の搭載エネルギで、2/3の距離を走ることができる、言い換えれば同じ量の搭載エネルギで(2/3)×9=6倍の距離を走行できるということになります。この理由を考えてみましょう。

 

 理由の一つは、エネルギの変換のときの効率の違いです。ガソリン車では、ガソリンの持つ化学エネルギはエンジンで燃焼され、熱エネルギに変換されます。この熱エネルギは運動エネルギに変換される際に30%程度の効率となり、残りのエネルギーは排熱として失われます。一方、EVでは電池の持つ電気エネルギをモーターで運動エネルギに変換する際の効率は90%程度です。よって、EVのほうがエンジンより3倍程度、搭載エネルギを運動エネルギに変換する効率が良いということになります。

 

 もう一つの理由は、EVでは回生により運動エネルギを回収できることです。回生とは、走行中の車が減速するとき、モータを発電機としてはたらかせ、運動エネルギを電気エネルギに変換し、この電気エネルギで電池を充電することです。どのくらいの運動エネルギを回収できるかは、様々な抵抗による損失条件により異なりますが、ここでは多めに見積もって、加速時に電池が放出したエネルギの1/2を減速時に回収できるとしましょう。この条件では変換効率は2倍になっていると考えることができます。

 

 実際には様々な損失があるため、上記のような理想的な状態にはなりませんが、EVはガソリン車に比べて搭載エネルギを運動エネルギに変換する効率が3倍であり、さらに回生により2倍、これをかけ算して約6倍効率が高いので、同じ量のエネルギで約6倍の距離を走行できると考えると、だいたいつじつまが合いそうです。

(数値はあくまで概要を説明するために、様々な仮定の下に行った試算です。実際の条件と異なる場合もありますので、ご承知おきください)

 

 今回はかなり大雑把な計算でしたが、自動車のエネルギについて定量的にEVとガソリン車を比較してみました。他にも様々な身の回りにある動く物について、そのものを動かしているエネルギの「量」や、エネルギを変換するときの「効率」等に注目すると、より科学的におもしろく考えることができるかもしれません。概算でよいので、ぜひ考えてみてください!

 

 

参考文献

[1]https://www.subaru.jp/

2024/10/1閲覧

[2]https://www.tdk.com/ja/tech-mag/core-technologies/09

2024/10/1閲覧

[3]資源エネルギー庁「エネルギー源別標準発熱量一覧表」

https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/pdf/stte_016.pdf

2024/10/1閲覧

 

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